約30年前。
日本はバブル景気の真っただ中。
お客様は金融機関にお勤めで、イギリス・ロンドンへ駐在されていました。
赴任先は、世界有数の金融街 「シティ・オブ・ロンドン」。
世界中から金融マンが集まるその街で、毎日スーツに身を包み、仕事に向かわれていたそうです。
当時のイギリスは、サッチャー政権の改革によって国を立て直そうとしていた時代。
一方、日本は世界から勢いのある国として注目されていました。
そんな時代に出会ったのが、Church’s(チャーチ)。
英国紳士の装いに憧れながら、ロンドンで購入された二足です。
背広。
革靴。
ハット。
杖。
シェービング。
街を歩くだけで、「英国紳士」という文化を感じる毎日だったとお話しくださいました。
当時はビスポークを仕立てることまでは考えなかったものの、「いつかは」と憧れを抱きながら選んだのが、このチャーチだったそうです。
30年という歳月が流れ、今では「旧チャーチ」と呼ばれる一足。
流行が変わっても、その作りの良さは色褪せません。
今回は、
一足はオールソール交換。
もう一足は息子さんへ受け継がれることになり、
かかと交換、つま先にはヴィンテージスチールを取り付け、かかとの内側はフランス・デュプイ社のライニングレザーで「すべり革修理」を行いました。
そして最後に、丁寧に磨き上げてお渡ししました。
修理を終えた二足を見つめるお客様の表情が、とても印象的でした。
まるで、久しぶりに我が子と再会したような、優しく穏やかな眼差し。



その姿を見て、靴は単なる道具ではなく、その人の人生を共に歩んできた存在なのだと、改めて感じました。
良い靴を、修理しながら何十年も履き続ける。
そんな文化もまた、英国らしい価値観なのかもしれません。
天草製作所も、その一足の歴史を未来へつなぐお手伝いができれば幸いです。
この度はご依頼いただき、誠にありがとうございました。